大判例

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東京高等裁判所 昭和28年(ツ)63号 判決

上告人 後藤春恵 外七名

被上告人 牧野一三

〔抄 録〕

上告理由第一点について。(中略)

しかし原審はこの説明に次いで成立に争ない甲第二号証第一審における証人寺島直光、被上告人本人、原審における証人寺島博、寺島直光の各尋問の結果を綜合して、被上告人は肩書地に転居した後も依然本件室を賃借し、ここに被上告人所有の寝具、鍋、釜等を残置してこれを占有していたところ、昭和二十五年六月下旬頃訴外寺島博が被上告人の承諾を得て布団と若干の日用品を携行して本件室に五日間位宿泊するや、上告人等の先代後藤幸雄はこのことを知つて右訴外人と交渉して退去を求め、任意にその明渡を受けたが、その際更に被上告人が本件室に残置していた前記同人所有の物件をほしいままに他に搬出し、その室の扉に施錠して、その後これを原審における被控訴人原和美に賃貸し、同人においてこれを現に使用占有していることを認定したうえ、該事実に基いて、上告人等の先代後藤幸雄は被上告人の本件室に対する占有を侵奪したうえ、本件室の貸主として借人である前記原和美を代理人としてこれを現に占有しているものであると判示し、もつて上告人等の先代後藤幸雄に対する被上告人の本件室の明渡請求を認容しているのであつて、原審挙示の証拠資料によると、右のような事実認定をするのが相当であり、かような事実関係の下では右のように被上告人の請求を認容するのが正当であるから、原判決は結局正当に帰し、前記判示の失当はもつて原判決を破毀するに足りない。蓋し、或る室の賃借人が他に転居しても、寢具、鍋、釜等を残置している以上はその後の賃料を支払はず、残置品も僅少無価値に等しくその室に対する所持を喪失したものとみられる事情のないかぎり、なおその室の占有を継続しているものと解すべきであり、転後一年を経て他人を五日間その室に居住せしめその他人が、貸主の要求に基き自己の携行した布団と若干の日用品とを携えて任意その室より退去したとしても、その他人が賃借人の残置した寢具、鍋、釜等まで搬出したのでないかぎり賃借人のその室に対する占有はなお存続するものと解するのを相当とすべく、賃貸人が賃借人の同意を得ず、右残置品を他に搬出し、その室の扉に施錠し、その後その室を別の他人に賃貸し使用せしめた事実があれば、右搬出、施錠の時に賃借人のその室に対する占有を侵奪したものと解するを相当とするからである。(以下中略)

同第二点について。

不法に他人の占有を侵奪した者は、たとえその目的物を他人に貸渡したとしても、その借受人は自己のために占有すると同時に貸主のために代理占有するものであるから、貸主たる侵奪者は依然目的物の占有を現になすものというべく、したがつて被侵奪者は侵奪者に対し占有回収の訴を提起して占有物の返還を求め得べきものと解するを相当とする(大審院昭和四年(オ)第一八〇九号同五年五月三日判決参照)から、これと同旨に出た原判決は正当であつて、右と反対の見解に立脚する論旨は理由がない。尤も侵奪者から直ちに強制執行により物の返還を受け得られないかもしれないが、これは右返還請求権の存否になんら消長を来すものではない。

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